魔女と魔法使いと。     .....05/31

   

貴方が私の名を呼べば、それは呪文となり、私は魔法にかかる。

私が貴方の名を呼んだとき、それは呪文となって貴方に魔法をかけるだろうか?

   

昔読んだ絵本の中に、好きな人を振り向かせる魔法には妖精の涙が必要、とあった。

私は泣き虫だから涙を集めることは容易だけど私は妖精なんかじゃないし、

生憎私のこの澱んだ眼球では妖精を見つけることが出来ない。

   

私はきっと魔女だと思う。だけど私は魔法が使えない。

魔法の杖だって持っていやしないし、ましてやほうきに乗って空を飛ぶことも出来ない。

ただ、毒りんごの作り方だけは知っているんだけど、

自分で作った毒りんごを自分で食べてしまうような、私はそんな間抜けな魔女だ。

自分や周りの誰かを苦しめるような、そんな術しか知らない悪い魔女だ。

   

そんな私に貴方は酷い魔法を掛けた。

ただ単純に私の名を呼ぶという、たったそれだけで。

耳の先が熱くなって、頬が赤くなっているのが分かった。

頭の中がぐちゃぐちゃになって、たくさんの色が渦巻いた。

胸がぐっと苦しくなって、涙が止まらなかった。

今も思い出すだけでドキドキして喉の奥が締め付けられる。

こんなにも痛くて、切なくて、悲しい魔法をかけるだなんて。

貴方はきっと私よりもずっとずっと悪い魔法使いだ。